人事制度は企業マネジメントの一つ、組織も変わる時期です
人事制度を立案し、実行するのは、人事部に任せる業務ではありません。むしろ経営者が、徹底的に企業という組織のあり方を考えることがすべてである、と言い切る方が、この問題の本質を突いています。人事制度は、組織マネジメントの手法だからです。評価制度にも報酬制度にも、ちょうど改革の時代が来ている今、組織論にも改革の時期が来ているのです。
ティール組織は「働き方」に関する方法論です
その大きな衝撃が「ティール組織」です。日本語訳本である「ティール組織——マネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現」(フレデリック・ラルー著、鈴木立哉訳、英治出版)が2018年1月に日本でも出版され、2019年の「ビジネス書大賞」経営者賞をはじめ、多くの賞を取り、再び注目を集めました。2018年11月には同名のイラスト解説本(中埜博訳、技術評論社)も出ました。副題は「新しい働き方のスタイル」。人事制度を考えることは会社という組織を考えること、会社という組織を考えることは、人事制度を考えることなのです。
ティールは、組織モデルの色です。名称にこだわる必要はありません
ティールは、何かの略語ではありません。ラルー氏は、組織モデルを産業の発展に即して5つに分類しています。すでに取り上げた「カリスマ支配の組織」を赤色、「軍隊的組織」を琥珀(こはく)色、分権型・達成型組織をオレンジ色に分類し、その先に、緑色の「ボトムアップ型の組織」、さらにその先に「個々に意思決定権があり、事業や、ビジョンなど「社員の意思」を重視して変化させる「進化する組織」を考え、その組織に青緑色(Teal)を当てたのです。
青緑色は、鴨(かも)の頭の羽の色です。色に象徴される「なにか」を意味させてはいますが、それ以上の意味はなく、何かの略語でもありません。「分権型・達成型組織」であるオレンジ色組織の先をいく組織を考える時に色で象徴させたのです。
ティール組織は単に「青緑色」組織ですが、3つの特徴が
日本の企業にも多いオレンジ色組織は、上司がいかに部下に目標を下ろして仕事を任せるか、いかに達成させるか、が成果につながります。人事制度で、社員を評価したり等級、報酬を決めたりするのもここから派生しているわけです。
これに対し、ティールは、一言で書けば「フラットな組織」、経営者や上司が社員の業務を指示、管理せず、組織はピラミッドの形にはしない組織です。荒唐無稽な組織を主張しているようですが、3つの特徴があります。
1、セルフマネジメント。自主経営と訳していますが、上司の指示でなく一人ひとり自分の判断で行動し、成果を上げていく。社員への権限移譲と「助言プロセス」が不可欠だとしています。
2、ホールネス。全体性と訳していますが、「評価され、期待されている自分」ではなく「ありのままの自分」(これがホールネス)を尊重し、受け入れることを重視します。
3、エボリューショナリーパーパス。進化する目的と訳しています。経営者やマネージャーが示す会社のビジョンや、事業、サービスではなく、一人ひとりの社員の意思でそれを進化すべきだという考え方です。経営者、マネージャーは「耳を傾ける、傾聴する人」という位置付けです。
共通するのは、組織を変えていくことについての会話の重視です。
そのうちの一部なら、すでに日本でも実践例があります
ティール組織は、上記の3つの特徴のどれか、あるいは全てを備えている、というのがラルー氏の位置付けです。日本でもすでにスタートアップ企業や、中小企業、ベンチャー企業を中心にティール組織の考え方を導入しているところがあります。そうなれば、人事制度自体も、自ずと変わらざるを得ません。
こういった企業では創業社長の権限が強いため、決断から導入まで時間がかからないのですが、1万人を超える企業でも実践例がある海外とは異なっています。これは企業風土の違いでしょう。
ティール組織は、常に進化を求める。であれば
ティール組織を取り入れた企業においては、機能しなくなった組織は、廃止し、そして、また新しい組織を作っていこうとしている傾向があるそうです。その度に人事制度も、また変えています。
この予測し難い、経営計画も機能しにくい時代を打開していくためには、企業のあり方も次々変わり、人事制度も、また変わらざるを得ません。人事制度は、会社の単なる一つの機能でなく、奥が深いのです。