人事制度のタイプ:ジョブ型とメンバーシップ型について
近年のコロナ禍におけるテレワークを背景に、日本ならではの人事制度であったメンバーシップ型の雇用制度を、欧米でスタンダードであるジョブ型の雇用形態に切り替えるべきという議論が活発化してきています。人事制度にはメンバーシップ型とジョブ型と呼ばれる2つの制度があります。メンバーシップ型とは、新卒を一括採用し職務を限定せずに部署異動を繰り返しながら同一組織で長い間雇用する、いわゆる日本の会社における代表的な人事制度となります。一方、ジョブ型とは専門的なスキルや経験を持った人材を、あらかじめ専門職として採用し、その従業員の成果によって雇用の継続や処遇が決定される人事制度です。この記事ではこの二つの人事制度である、メンバーシップ型とジョブ型に関する説明と、それぞれの制度に対するメリットとデメリットについて考察していきたいと思います。
メンバーシップ型について
メンバーシップ型雇用制度とは戦後から多くの日本企業に取り入れられてきた人事制度であり、日本型雇用制度とも呼ばれています。その大きな特徴は年功序列や終身雇用、及び新卒一括採用等、昭和のサラリーマンをイメージするとわかりやすいと思います。雇用された従業員は異動や転勤を繰り返しながらのキャリアアップとなり、会社組織への帰属が強く求められる傾向にあることも大きな特徴となります。働く従業員にとっては定年退職まで安心して働くことができるうえに、戦後の経済成長期においては給料も毎年確実に上がっていく状態でしたので、転勤や異動等はある程度受け入れるべきという考えが正しいとされてきました。会社都合に合わせながら自身の生活を工夫する必要こそありますが、長期間の安定雇用に重きを置いていた日本人気質に合致した人事制度とも言えるのかもしれません。
メンバーシップ型雇用制度の企業にとってのメリットは、採用時にて業務内容や労働条件などに限定した契約を行わない為、会社都合で従業員の業務内容や勤務地を変更することが可能であることがあげられます。例えば急な欠員など発生した場合、異動によって自由に従業員配置転換が可能であります。
一方、従業員にとってのメンバーシップ型雇用におけるメリットとしては、基本的に終身雇用が前提の人事制度ですので、会社都合による解雇リスクが比較的小さいことがあげられます。例えば担当していた業務が何らかの事情により不要になったとしても、即時解雇になることは少なく、異動等によって雇用契約を継続することが可能です。また人材育成を目的とした研修制度も完備され、安心して長く働き続けられる上に、給与アップも見込めるのも大きなメリットと言えるでしょう。
まずメンバーシップ型雇用制度について企業にとってのデメリットとしては、会社への貢献が少なく今後も見込められないような従業員であったとしても、勤続年数に伴う給与アップをしなければならない場合が考えられます。
一方、従業員にとってのデメリットとしては、異動や長時間残業さらに単身赴任を伴う転勤等、会社都合による業務命令に翻弄される生活を強いられることがあげられます。また、定期的な部署異動に伴い専門的知識や能力が身につきにくいことや、従業員評価は業務の成果だけでなく、企業や組織への貢献度及び忠誠心の強さなど、とかく上司の主観に基づいて判断されやすいのもデメリットとされています。さらに制度上賃金や役職は従業員の能力だけではなく勤続年数や年齢に重きが置かれやすいため、出産や育児休暇によりキャリアが中断した女性は、男性と比べて担当業務や待遇面で不利になるケースがあります。メンバーシップ型雇用制度は基本的に従業員の能力というより、勤続年数や年齢によって評価される傾向があり、優秀な従業員であっても若年であれば低賃金となってしまうことも多く、優秀な若手のモチベーション低下も課題になっています。
ジョブ型について
ジョブ型雇用制度とは、あらかじめ業務内容や勤務地等の労働条件を明確にした上での雇用契約となります。雇用された従業員は契約業務範囲内で従事することとなり、高い業務スキルが求められる一方、スキルさえ所有していれば年齢や男女差関係なく、新しい雇用機会が得られるのも特徴です。また人事評価も業務内容や実績に基づき判断されますので、比較的公平性の高い人事制度といえるでしょう。日本ではよく「ジョブ型雇用制度は欧米型の雇用システム」と表現される場合がありますが、世界的に見るとジョブ型雇用制度が一般的であり、メンバーシップ型雇用制度は日本特有の人事制度と考えてよいでしょう。
ジョブ型雇用制度による企業にとってのメリットとしては、あらかじめ必要となる専門分野に秀でた人材を採用する為、雇用のミスマッチを防ぐことが可能となります。また、従業員それぞれのスキルに合致した業務に従事させることにより、その道のスペシャリスト育成が比較的効率よくできることも企業にとって大きな魅力といえるでしょう。
また、ジョブ型雇用制度による従業員にとってのメリットは、自分のスキルや能力を最大限発揮できるように、職種を自分で決定できる点が最大のメリットとなります。自分好みで得意な業務に取り組めることにより、より効率よくスキルアップが可能であり将来への高収入につなげることも可能となるでしょう。また、ジョブ型雇用制度は仕事内容だけでなく、勤務地や時間さらには報酬等多くの労働条件を明示した上で契約となる為、仕事のミスマッチが生じにくくなります。また、日本のサラリーマンのように自分の担当業務が終わったにもかかわらず、周りが残っているからなどの理由による残業が必要なくなることも挙げられます。
ジョブ型雇用制度による企業にとってのデメリットとして、従業員が対応すべき業務は契約に定められている業務のみという原則があります。そのため、記載されていない仕事は契約範囲外となりますので基本的には依頼することができません。例えばある部署の社員が急病で一時的に業務を遂行できなくなった場合、臨時で他部署の人員を補充するということが難しいこととなります。また、ライバルの会社に自社の優秀な人材を引き抜かれるリスクがあるのも大きなデメリットと言えそうです。ジョブ型雇用では優秀な人材を育成しやすい反面、社員が専門性やスキルを向上させた結果より待遇のいい他の企業に引き抜かれてしまうことも多いようです。
また、従業員にとってのデメリットは、あらかじめ自分でスキルを磨く必要があり、そもそも業務遂行能力があるのが当然という前提での雇用契約となるため、社内にて人材育成を前提とした研修制度や社内トレーニングは完備されていない場合がほとんどとなります。
まとめ
かつて高度経済成長期の日本経済を支えた人事制度であるメンバーシップ型雇用制度は、急速に変化する現代のビジネス環境下においては時代遅れの制度であることは事実のようです。特に近年流行した新型コロナウィルス対策として採用されつつある、テレワークの技術活用した業務管理には不向きな制度となります。また、同一労働同一賃金の義務化に対応するためにも、人事制度を変化させる必要があります。しかし、メンバーシップ型雇用からジョブ型雇用へ完全移行するべきかと言えば、必ずしもそうとは言えないのも事実です。メンバーシップ型雇用のメリットは残しつつ、ジョブ型の良いところを取り入れるなど、今の時代に合わせた独自の雇用システムを再構築することを視野に入れる必要があるのかもしれません。
各企業がジョブ型とメンバーシップ型それぞれの雇用形態におけるメリットとデメリットを熟慮した上、自社にとっての最も有効な雇用形態と人事制度を模索する必要が迫っているように思えます。また、私たち個人としても、自分がどのような組織でどのような雇用形態で働きたいのか十分考えることも大切だと思います。