人事制度のもう一つのポイント、等級制度をどう議論し、どう変える
人事制度の中で、評価制度と並ぶもう一つのポイントは等級制度です。評価と等級は表裏一体である、とすでに書いている通りです。等級制度は、結局は社内におけるランク付けであり、大半の社員から見ると「好き」な制度にはならず、正面からの議論を避けがちですが、実は、長く続いてきた終身雇用を含む日本型雇用制度は、この等級制度の中の「職能等級(資格)制度」に埋め込まれているのです。
職能等級制度とは、スキルを共通化することから始まる
この職能等級(資格)制度でいう「職能」は、社員一人ひとりの、社会人としての仕事のスキルを判定して、そのレベルに応じて等級を定めるものです。その場合、それぞれの仕事ごとに職務を特定して能力を判定するのではなく、すべての職務に共通する等級基準を定めるという手法をとります。
その根っこには、能力は職場を超えて共通しているという考え方と、社歴に比例して能力は向上するものであるという考え方が横たわっています。この職能等級(資格)制度は、長い期間かけて人材を育てるとか、ゼネラリストを育成しやすい面があり、年功序列の会社に適しています。
このことで、当然ながら年功序列を推進する仕組みを内包し、年功序列の会社にしか適用できない欠陥を持つわけですが、終身雇用が主流だった昭和時代半ばの第2次世界大戦前後以降の日本の企業には、広く受け入れられてきました。
終身雇用の時代が終わった今、新しい職務等級制度が…
しかし、のちの時代から見れば、労働人口が毎年増えていた昭和の半ばから平成のある時期までの、終身雇用時代に主流だったのが職能等級(資格)制度だと評価されることになることでしょう。
令和の時代に入ってから日本最大の企業であるトヨタの社長や、経済団体の首脳が「終身雇用を守るのは難しい局面になった」と明らかにしたのが、象徴的です。多様な働き方の実現を目指し、本業以外に副業も可能になり、業種によっては外国人を雇うために報酬体系を変えなければならない時代に注目されているのが、職務等級制度です。
職務を分析し、年齢、勤続年数に左右されない人事考課は職務等級制度
職務等級制度は、その人が従事し、求められる「職務」を分析し、評価して処遇決定の判断材料にします。職務そのものを評価するので、年齢や、学歴、勤続年数に左右されない等級区分を明確にできる分、職務に公平な人事考課と報酬が実現する可能性はあります。主にアメリカで発達してきた制度です。
働き方改革関連法の一環として「同一労働同一賃金」が大企業では2020年4月から、中小企業では2021年4月から施行することが義務化されます。職務等級制度は、うまく導入、運用できればこうした働き方改革の方策にも寄与できるでしょう。
一方で、職務に台頭する職務記述書(ジョブ・ディスクリプション)を作っていくのが必須です。仕事を助け合うことの多い仕事だと、個々人の職務を明確に区別するのが難しい例が多く、このあたりが日本での導入の鍵を握ります。
「役割等級制度」という日本型の等級制度も注目されます
従事する職務を重視するだけでは困難な場合を念頭に置き「役割等級制度」も考えられます。職務を重視しつつ、個々の能力から設定した「役割」に対する目標達成度や習熟度を評価基準にして報酬を決めていこうという制度です。
職能等級(評価)制度の影響が日本企業では大きいため、それの後継策として、職務等級制度のメリットも生かすために考えられた等級制度です。役割というのは、職責を果たすために進んで取るべき行動を簡素化したもの、ミッションといっても良いでしょう。定型化された職務だけでなく、管理職であればポジションに応じて「日常的に業務プロセスの改善を行う」「社内のみならず社外の関係者とも調整を行い、解決策を導き出す」など期待される非定型な業務も含まれます。
もともとこれも1980年代にアメリカで始まった制度です。等級制度の仕組み作りには試行錯誤が欠かせません。むしろ、試行錯誤ありき、と考えた方が賢明です。