見直しが急務!テレワークに適した人事制度とは

テレワークにおける人事制度の問題点は?

テレワークを進める中で最初に直面する問題点は、情報セキュリティの面です。ハード・ソフト両面を整え、体制を作る必要性が急務として浮上しますが、ここは技術的に解決しやすい部分でもあります。
次にテレワークを実際に行う中で問題として挙がってくるのは、社員間のコミュニケーションや人事制度の面です。これまで、“会社に出勤している”という前提で成り立っていたことですが、その前提が変わったことで、どんな問題が出ているのかを見てみましょう。

●勤務態度を見ることができない

今までは、同じ場所にいることで見えていた勤務態度や作業状況などを、物理的に把握することが難しくなりました。実際にちゃんと仕事をしているかどうかを確認する方法が、テレワークではまだ確立されていないことがあります。これまでは目視やちょっとした会話から行っていた勤務状況の把握が、同じ場所にいないために不可能になったこと、そしてそれに代わる手段が組織によってはまだ明確に確立されていないことは、問題点として挙げられます。また、自宅での仕事においては服装や髪形なども自由であるため、これまでは社会人マナーとして評価対象の一つと考えられていた「勤務態度」の項目にも影響しません。この項目をそのまま評価基準として機能させることの矛盾が出てくるため、評価基準を見直す必要もありそうです。

●勤務時間を把握することができない

上記と同様に、同じ場所にいることで把握できていた部分でしたが、別々の場所で勤務することになると、今までのように目視では確認できなくなります。定時に出社できているか、遅刻や残業などがないか、物理的な空間を同一にすることで確認していたことを、現在では自己申告に頼る部分が多く信頼性が乏しいとも言えます。また、各家庭の状況によっては、日中に仕事をしづらいケースもあり、早朝や深夜などに仕事をズラして行うこともあるでしょう。テレワークにより、会社のチャイムによる一斉開始という形がなくなり、稼働する時間が人によりズレるケースや、勤務開始時間と終了時間が曖昧になってくるケースは、今後さらに増加しそうです。先に挙げた「勤務態度」に類するものとして、評価基準の対象になり得るのかどうか、今後の検討が必要な部分とも言えます。

●仕事のプロセスを把握しづらい

これまで、同じ場所にいたことで自然にできていた雑談や、ちょっとした確認などのコミュニケ―ションができなくなったことで、相手の状況を把握しづらい状況になっています。ほんの数分の会話や立ち話、メモなどから小刻みに確認していた情報が、その経路を断たれてしまい、プロセスを管理することが難しくなりました。また、プロセスを管理する中で得ていた、部下のモチベーション・姿勢・本音・感情なども見えづらくなっていることは確かです。

テレワーク時代の人事評価方法

上記のような問題点を解決するために、改めて人事制度を見直す必要があります。下記では、そのヒントとなるいくつかの方法をご紹介します。

●評価基準・方法の見直しと明確化

テレワークによって直接対面する機会が減り、評価の対象として目に見える成果や数字に頼る部分が大きくなりがちです。それによる偏りが出ないよう、評価基準や方法が今までと同じもので良いのか改めて見直し、周知徹底することが必要です。例えば評価方法に関して、今までは直接面談で行っていたものを、オンライン面談に切り替える場合、これを明確に統一化することで、評価方法のバラつきを抑え、公平な評価に結びつくようにします。また、目に見える成果だけに偏らないよう、プロセス評価をどのように行うか、テレワークに合わせた評価項目を新たに作り出す必要もあります。従業員に対しては、姿が見えないことにより「姿勢」「意欲」「プロセス」が見落とされがちになる傾向があることや、成果以外の部分で評価されにくくなるリスクを避ける行動を明確に説明し、自ら報告や相談を行うなど、自発的なアウトプットの習慣を促すようにします。このように、評価する側・される側の両者に対して基準や方法を改めて明確にガイドすることが、テレワーク時代の人事制度では必須となるでしょう。

●MBO制度の導入

MBOは、Management by Objectivesの略で、組織の目標に沿って各社員が自主的に業務目標を定め、それを実行したか否かに基づいて評価する「目標管理型」の人事制度のことです。現在、導入している企業も多く、課題達成型の目標管理や、組織活性型の目標管理など、組織の掲げる目的によって運用方法は異なります。基本的には、目標に対する取り組みと、その達成度合いをもって評価を下すものであるため、数値化や明確化がしやすく、相手の姿が見えていなくても評価を実施しやすい面があります。
注意すべき点は、評価するためだけのMBOになってはいけないということです。MBOの元々の概念である「自主的な目標を持たせることにより、社員のモチベーションとパフォーマンスを上げること」を忘れないよう留意しつつ、実施することが大切です。

●裁量労働制の導入

テレワーク導入によって、開始時刻や終了時刻の管理が曖昧になってくると、“勤務時間を守る”といった勤務態度を評価項目にすること自体が意味をなさなくなる可能性があります。時間による管理ではなく、裁量労働制を一部採択することには検討の余地がありそうです。裁量労働制とは、働く時間帯を個人に任せるもので、専門業務型裁量労働制と企画業務型裁量労働制の2つがあります。専門業務型の場合は、19の専門業種に限定したもので、例えばデザイナー・編集者・研究者・弁護士・税理士・システムコンサルタントのように、決められた時間範囲で働くことが難しい業種に適用されます。企画業務型は、業種を限定したものではなく、4つの条件(例えば、企画・立案・調査・分析に関する業務であること、など)を全て満たした場合において適用可能となるものです。限られた条件の元で採択可能になりますが、部署により有効に機能する可能性のある人事制度です。注意点としては、裁量労働制に移行する場合、勝手に導入することができないことです。必ず事前に、使用者と労働者間で取り決めを行う必要があります。

●バリュー評価の強化

バリュー評価とは、企業が掲げている「バリュー」を達成できたかどうか、に注目した評価制度のことです。企業が設定している理念やビジョン、経営方針に基づき、従業員がどれだけ同じ価値観をもって実践を行ったかを評価の基準にしています。従業員が企業の価値観を正しく共有することにより、社内風土が情勢され、全員が一体となって同じ方向を向いて走ることができるようになります。また社員間で協力の姿勢ができあがり、団結力や組織力が向上し、さらに離職率の低下にも繋がります。
テレワークにより社員がバラバラになりがちな状況において、改めて注目すべきものと言えるでしょう。
他人の姿が見えないことで、自分の業務だけを完璧にこなすこと、自分の成果を目に見える形で上げること、それだけに集中してしまう傾向が高まることも予想されます。そのような中で、自分のためだけではなく、全体のことを考えることにも意識を向けさせる必要があります。導入の注意点としては、この評価基準が仕事への意欲や姿勢にフォーカスするものであるため、業績や能力によって評価するものではないという点です。企業の利益向上を達成する評価基準と併せて、採用するケースが増えています。

●ITサービスの導入

テレワークの普及に伴い、それを支援する様々なITサービスが出て来ています。会議ツール、チャットアプリ、タスク管理アプリ、などを活用することで、業務プロセスの管理を行いやすくなり、小まめにコミュニケーションを取ることもできます。これは、“姿が見えない”“近くにいない”ことから生じていた人事評価上の不都合を一部補うことにも繋がります。
また、勤怠管理や社員の情報をクラウドで一元化するシステムなど、人事評価をしやすくするシステムを導入することによって、マネジメント層の負担を減らすこともできます。ITサービスを導入することで得られるメリットには大きなものがありますので、最大限に活用すべきでしょう。

まとめ

テレワークでは、勤務態度や姿勢、意欲、業務プロセスなどを目で見て自然に把握する事ができないため、それを補うサポートを行うと共に、新しく適切な人事制度を設計する必要があります。まずは新しい制度の導入によって改善に繋がった組織の事例を入手したり、人事コンサルティング会社に相談したりするのも手です。プロに相談することで、多くの生きた事例が手に入り、疑問点について即座に回答を得ることもできるので、判断を早めることができます。それぞれの企業文化や体制に最適なものになるよう留意しながら、従業員のモチベーション向上にも繋がる方法を実践していけるよう積極的に検討を行いましょう。